食の豊かさを伝え、地域から愛されるお店に /熊谷桂子さん

食の大切さ伝えるスイーツで、地元の食材の魅力を発信


 宮城県北部、岩手県との県境に位置する登米市。平坦な土地に田畑が広がる県内有数の穀倉地帯。仙台からは東北自動車道や三陸自動車道で1時間〜1時間半、栗駒や石巻などの海や山とも程よく近いアクセスも魅力です。「精進スイーツ結び」の熊谷桂子さんは、登米市の豊富な食材を使い、体にやさしいスイーツや料理を提供しています。Uターンして地元で自分の店を開く夢を実現させた熊谷さんに、これまでの経緯と思いを伺いました。


食で人は変わる。現場で学んだ気づきが起業のコンセプトに


 「精進スイーツ」という名前は、白砂糖や、卵、乳製品などの動物性食材を使わずに作る「マクロビオティック」や「ビーガン(菜食主義)」の考えを取り入れて名付けています。アレルギーがある、添加物などが気になる、体に良く、おいしいものが食べたい…と、目の前に田園の広がる住宅地の中の小さな店に、地元はもとより、遠方からお客さんが訪れます。
 子どものころからお菓子作りが好きで、いつか地元に自分の店を持ちたいと思っていた熊谷さん。20歳のとき夢の実現に向けて、仙台のケーキ店の製造工場に勤めました。
「仙台での数年間は、現場でケーキ作りを学んだほか、店を出す際に役に立つはずと、カフェや居酒屋などの飲食業を掛け持ちして働きました。その後、結婚・出産を機に地元に帰り、子育てをしながら、仙台のクッキングスクールの講師をしたり、地元のケーキ店で働いたり…。私疲れ知らずなんです」と、とにかくパワフルな熊谷さん。開店資金を貯めようとケーキ店と掛け持ちして夜に働き始めたファミリーレストランでは、パートから2年で店長に抜擢。ケーキ店を辞め、繁盛店の店長として、在庫管理やスタッフの育成、事務処理、クレーム対応までこなしました。「大変でしたが、店を経営するうえで多くを学ぶことができました」と振り返ります。何よりここでは、今の店のコンセプトにつながる気づきを得ることができたそう。


 「子どものアレルギー対応メニューを置いていたので、需要の多さを日々感じました。自分の経験としても、店の料理を食べることが続いたとき、外食の料理のカロリーの高さや調味料の濃さなどで、肌が不調になったんです。食べるもので体ができるということを考えさせられました」
 熊谷さんの中で、「安心して食べられる体にいい食」への思いは強くなっていきました。
 また、店長になった年の春、東日本大震災がありました。
「震災後1週間ほどで電気が通り、営業を再開したとき、津波で被災した隣町のご家族が来店し『やっと温かいご飯が食べられた』と涙して喜んでくれたことに心を打たれました。一方、いつもよりメニューが少ないことに不満を言う人もいて…。生きるために食べるのですが、何を食べるかで感情も体調も体質も変わる。私は体にいい食と人を繋ぐ仕事をしたいんだとはっきり思いました」


オープンして5年。お客さんの反応が変わってきた


「ナチュラルフードコーディネーター(日本創芸学院)」の資格を取ろうと、玄米食や菜食料理、マクロビスイーツを学んでいたとき、目指しているのは、昔おばあちゃんが作ってくれた料理と同じだとふと気が付きました。戦争で満州に行った経験があり、料理もおやつも何でも手づくりしてくれた、熊谷さんにとってスーパーおばあちゃんでした。
「便利な世の中になったけど、食品の添加物や農薬など、今の日本の食は大丈夫だろうかという思いになりました。自分の店は、体や意識をリセットする場、食について考えるきっかけになる場にしようと決めました」。
 一般的な焼き菓子も並べて売ることも考えましたが、「安心安全」が中途半端になるより、地元の無農薬野菜や小麦粉にこだわり、血糖値が急上昇する白砂糖や、アレルギーの多い卵や乳製品を使わない覚悟をしました。納得いく仕上がりになるまで味を追求し、2014年7月にオープン。健康志向を打ちだした店は周辺にもなく、マスコミにも取り上げられて人気店に。
 オープンして5年が経った今、お客様の反応や意識が変わってきたのを感じているそうです。男性客も増え、プレゼントに利用する方も目立ってきました。ここのスイーツを食べ続けていたら、ほかのものが食べられなくなったという声も。以前は、体にいいとアピールすると「でも美味しくないんでしょ」という反応もありましたが、実際に食べておいしい、体や心に届く何かが違う…と実感した方々が、リピーターになってくださっているようです。
「『アレルギーのあった娘が小さいときお世話になった』と言われ、子どもの頃の一時期でも、誰かの役に立ったと思うと嬉しかった。そういう仕事がしたいと思っていたんです」
 もうひとつ、大事にしているのは料理教室。家庭で手づくりすることの大切さを伝えます。忙しい中でも、少しずつ手づくりできるものが増えれば、その思いは子どもに伝わるはず。女性は妊娠や出産、子育ての最中で初めて食について考え直したという人も多く、熊谷さんの料理教室に通う妊婦さんも多いそうです。


本当の食の豊かさを伝え、育ってきた地域に恩返ししたい


「実は登米市は県内メタボ率ワースト1なんです」と熊谷さん。「本当の意味で食の豊さを伝え、登米市を変えないと、って思いましたよ!」と明るく宣言します。
熊谷さんは現在シングルマザーで、実家で子育てを手伝ってもらえる環境ですが、シングルマザーの働き方として、時間を区切って営業するなど、自分の都合でやりやすい方法が選べるので、起業という選択肢は合うのでは…と話します。
「登米市や商工会の起業・創業支援を受け、丁寧なアドバイスもいただき助けてもらいました。地域への恩返しのつもりでいろいろ挑戦しながらやっていきたい。地元で生産されたおいしい食材を、上手に商品にして消費者に発信することができれば、この地域と豊かな食が次の世代に続いていく手伝いになるのではないかと思っています。一度の人生、後悔したくない、やりたいことをやろうと思っています。そこも伝えていきたいですね」

インタビューした人:熊谷桂子さん
category: 移住者インタビュー   theme: 登米市

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