関わりたくなる!?不思議な魅力・山元町

 仙台中心部からは車で1時間ほど、県南東の海沿いに位置する山元町。震災の津波で町の面積の3分の1が被災しましたが、いちごの観光農園などのにぎわいを生む産業や子育て支援メニューの充実など暮らしやすさを軸にした、新たなまちづくりを進めています。山元町でまちづくりや移住・定住サポートに関わる一般社団法人「ふらっとーほく」代表の阿部結悟さん、理事の阿部拓也さん、移住して2015年5月に山元町唯一の洋菓子店「Petite joie(プチット・ジョア)」をオープンした伊藤雅訓さんの3人に、自身の活動(仕事)や町への思いを語ってもらいました。


町や人と交流しながら、生き方・暮らし方・働き方を考える


―まちの未来と課題設定のお手伝いを担う「ご近所シンクタンク」。ふらっとーほくの活動とは?
阿部(結)スタートは東日本大震災の復旧・復興のためにこの地域を訪れるボランティアの活動支援でした。その後、植林活動支援、人材育成支援、商店街のにぎわいづくりなど、行政や企業と協働し、そのときどきのニーズに合わせた活動をしてきました。人口減少する中、移住・定住に関しては、2017年から「やまもと関係案内所 マチビト」として空き家探しや仕事探しのほか、お試し移住・交流事業を町内や首都圏で企画・開催しています。研修や視察、体験ツアーのコーディネートなどは、「足元の現実から個人と社会の理想を見つめ直すための機会づくり」と考えています。結果としてそれがここへの移住に繋がる人がいるならいいねというスタンスですね。
阿部(拓) 町や人の課題を解決していくのが仕事になっていますが、与えられたテーマに沿って企画をつくり上げています。移住に関する事業は、山元町に関わる友達づくりをしている感覚ですね。


―2人とも山元町出身。この活動に至った経緯は?
阿部(結) 生まれは宮城県内の名取市。3歳の時、気候と空気のいい山元町に喘息の療養のために越してきました。大学時代は札幌で過ごしていましたが、3年生の時に東日本大震災があり、休学して戻ってボランティアを始めました。日本全国、世界各国から復興支援の申し出があったので、ボランティアと支援が必要な地元の人をつなぐ役目をするようになったんです。任意団体として活動を進める中、継続的な地域づくりの活動を目指して2012年に一般社団法人化しました。とにかく、「何かやらなきゃ」という思いでした。
 僕は以前から町の歴史や遺跡など古くからあるもの、そこに暮らしていた人などを掘り起こして回るのが好きでした。津波で何もなくなったかのように見えたこの町も、これまでそこで生きた生物の痕跡や、先人の創作した書物や建造物などの歴史があるわけです。子どもの頃、自分と同じように移住してきた、まちづくりに関わる先輩方にこの土地の歴史を教わりました。「よそもの」だからこそ歴史を興味深く調べたのかもしれませんが、そういう先輩たちが周りにいて、僕自身もそうした歴史を知ったことが、今の仕事に繋がっているように思います。
阿部(拓)震災後、故郷への想いから、山元町の団体事務局で活動していた経緯があり、その縁あってふらっとーほくの事務関係も手伝うことになりました。大学時代は農学部だったこともあり、地元の農家さんと津波の浸水した畑で大豆
やさつまいもの栽培試験もしてきました。現在は、山元町と東京など複数の拠点を行き来しながら、セミナーやイベントを行っています。


町を語るケーキづくり。この町で店を開くことの意味とは


伊藤 子どものころから、20代で自分の店を持つ夢がありました。高校時代には調理科のある学校に通い、洋菓子のおもしろさにはまって、ケーキ屋になる目標を定めました。字便自身は宮城県塩釜市の出身で、結婚を機に妻の実家のある山元町に移住し、念願の店を構えることができました。
 うちのケーキには、使用した地元食材の農園や農家の名前が入っています。山元町はいちごの町として有名ですが、りんご、いちじく、シャインマスカットなどフルーツが豊富。生産者さんがこだわりを持って作っているので品種や品質もいいのですが、それが地元の方々に伝わりきれていないと感じました。町に出来た最初のケーキ店として、地元に素敵な素材があることや、農家さんの思いなどストーリーを伝えられるケーキを作ろうと思いました。
 地元の食材を仕入れて洋菓子にするのは、料理と違って少しハードルが高い。というのも、食材に合わせた材料の配合を細かく出さなければならないので、安定した味の提供が難しいわけです。でも移住してここで店をやると決めた以上は、この町の食材を生かしたケーキ作りをやっていく。そうじゃないと意味がないと思いました。
 オープン当初は、ショートケーキやモンブランなど見た目もスタンダードなものしか売れなかったんです。僕が店を開くまで、町に洋菓子店がなかったせいか、個性的な見た目や知らない味を試してみようと思ってもらえなかったようで…。そこで町の人の嗜好に合わせながら、数年掛けて自分の表現を加えていきました。ようやく今は自分の好きなように作った新しいケーキを喜んでもらえるようになりましたね。
阿部(拓) カフェとしての場の役割も大きいですね。僕らも一息つける拠り所になっていますが、顔を合わせて仕事の話をすることもできる場です。


緩く受け入れ、素で付き合う。町の不思議な魅力


―3人は町の事業で協働されることも多いとか?
阿部(拓) 小さな町ではよくあるのかもしれませんが、いろいろな町の事業を掛け持ちして、1人が3役も4役もこなしています。事業が違っても主体か、サポートかなどの役目の違いはあっても顔ぶれが似ている。
阿部(結) 仕事を含め、いろいろな場面で関わり合ううち、仲間としてつながっていくわけです。
伊藤 この町の人たちは互いに顔が見えており、イベントなどの趣旨も分かっていることが多いので、頼まれごとがあったときに細かい打ち合わせしなくても要望に的確に応えて動ける。普段の関係性の中で余計な気を使わずフラットな感じで協力し合えます。
阿部(結) 40年くらい前になりますが、この町に移住してきてまちづくりにも関わっていた大学の先生が、「全部が出来上がった町じゃない、発展途上のおもしろさがある」と言っていたのを思い出しました。今もそれはあるのでは。
阿部(拓) 手掛けたことの成果が見えやすいというのはありますね。生活で言えば、津波で被災した常磐線も復旧し、仙台まで約40分で行ける利便性があります。海も近いし、夜は星もきれいに見えますが…自然が豊かなところは、よそにもたくさんありますけど、山元町はとにかく人が面白いですね。
伊藤 気候が暖かいので、仙台や県北の町と比べると雪がびっくりするくらい早く溶けます。でもただ便利という理由で移住はしませんよね。
阿部(拓)移住せずとも、熱狂的山元町ファンがいるんですよ。例えば、震災の語り部ツアーに参加しているうち、自ら語り部になったり、県外に住んでいるはずなのに、山元町の冬の白鳥の飛来やお店の新商品の情報などを早々と知っていてSNSで発信したり…など、そういう方が1人だけじゃない。町に不思議な魅力があるんですね。

阿部(結) 以前インターンシップを体験した大学生もリピーターになっています。はまる人ははまるというのは、やはり土地の魅力かなと。
伊藤 僕が感じるのは、この町の人は「素」で付き合う人たち。取り繕わず、いいも悪いも、そのまま見せる。探り合いなどせず、腹を割って話す。人と人との関係性に「本物」がある。一度本物に出合うと、忘れられないのだと思います。
阿部(拓) おせっかいも含めて正直な人間性ですよね。外から来た人に対しても、変にお客さん扱いしない。
伊藤 でも、多くの住民は、町にこれだけたくさんの資源があるのに、何にもないところだって言うんですよ。そういう風に引っ込んじゃうところは、歯がゆさもありますね。


暮らす人に会う、旅ツアーを企画。


阿部(結) そんな風に、引っ込んでいる人を表に引っ張り出すという意味で、2017年からNPO法人ハナラボと協力して、おもに首都圏からきた方に、ライターやカメラマンとして山元町の人を取材してもらっています。1泊2日の取材研修合宿を2回行い、それをもとに情報誌、『やまもとりっぷ』を年に1回発行しています。「暮らす人に会う旅ガイド」としたのは、観光地ではない山元町自体に興味がある人というより、町を舞台にライターやカメラマンを体験したいという人に対して、町に来てもらうきっかけとして企画しました。こちらで単に案内して回るのではなく、取材してもらうことで、町や人を知ってもらえます。
阿部(拓) 3年間で30人くらい参加してもらったのですが、地元に戻って地域のウエブメディアでライターをやっているという人もいますし、次のイベントのスタッフをしてくれたり、個人的なリピーターで来てくれたり。
阿部(結) 町の人たちの緩い受け入れ方が気に入る人も多い。でも、こちらも発信してもらうことで、町の人同士が互いを改めて知るきっかけになっています。


今ここから始まる町と人々の新しい可能性


―今後の目標は。
阿部(結) 今、僕らがまちづくりの中でやっていることは、なかなか目に見えにくい企画です。さっき「本物」というキーワードが出てきましたが、今、ここから始まって蓄積され未来に残る「本物」を作りたいと思っています。少なくとも1000年は、その土地に残る独自の文明や制作物を本気でつくりたい。今後も起こりえるし、避けることが難しい津波や水害、気候変動や抗争などあらゆる災いを耐えて残るものです。できれば僕が生きている間に、僕らも町の人もそれが花開くのを見たいと思っています。これから僕らが今後、1000年掛けて取り組んでいくことを、一緒にやってくれる人が町に来てくれればいいなと。専門性や独自の視点を持っているなど受け身でなく一緒にやりたいという人がいればうれしいです。
阿部(拓) 「雑草計画」という雑草ベンチャー事業(https://zaso.jp/)を立ち上げたので、雑草を活用した環境教育や商品開発など、「足元から未来を創造する」活動を広げていきたいです。雑草はどこにでもあるものですが、東京の雑草を活用した環境教育や商品開発など、「足元から未来を創造する」活動を広げていきたい。おもしろいと思ってくれる人がいれば一緒に活動したいですね。
伊藤 農家さんに農園を見せてもらったり、食べ方を提案してもらったりと、付き合う中で食材の知識を掘り下げることができました。今日も市場には出ない完熟のブドウを手に入れました。産地だからこそ使える味です。小さな店の、自分なりの取り組みの中では、農家の収入アップの手伝いにはならないかもしれませんが、連携して生み出したものを町の新しい名物としてお客さんに届けられるようにしたいですね。


それぞれの視点で町の人に寄り添い、歩調を合わせながら、この町で暮らす喜びや心の豊かさを感じる生き方を提案していく。不思議な魅力の山元町に惹かれた3人もまた、町の魅力となって輝いていました。

インタビューした人:阿部結悟さん・阿部拓也さん・伊藤雅訓さん
category: 移住者インタビュー   theme: 山元町

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