農家の庭先に見つけた地域の宝。定年後の移住で思いがけない起業

「もったいない」からスタートしたシャーベットづくり


栗原市一迫の「もぎたてフルーツ工房 土里夢」は、桃やトマト、柿、いちぢく、梅、自生しているベリーなど、おもに「農家の庭先」で取れる地場産のフルーツを生かした手づくりシャーベットが人気です。特に地域の人は「うちの柿がシャーベットになった」などと、故郷の自慢の贈り物に喜んでいます。また県内外から工房・直売所までわざわざ足を運ぶお客様も多くいらっしゃいます。「庭の果実は自家用で少し使うだけと聞いて、もったいないと思っていたんです。シャーベットなら季節に関係なく里山の恵みを楽しんでもらうことができると思いました」と話すのは、工房の代表の渡辺信雄さんと奥様の生子さん。10年ほど前、定年を機に東京都日野市から移住してきました。

これまでともに地方公務員として働き、商売の経験はありませんでしたが、桃の収穫を手伝っているときに、傷がついて出荷できずに捨てられる桃を「もったいないなぁ」と感じていたそうです。試しに信雄さんがシャーベットをつくってみたところ、生産者の皆さんにも好評。農家の庭の果実も使って事業化することになりました。地元の人には見慣れた里山の風景に貴重な「宝」があることに気が付くのは、まさによそ者(移住者)の視点ならでは。信雄さんは、「最初は自分の心地よさを考えて選んだ暮らしですが、地域の人と行動するうちに地域のために起業することになった。地方公務員の血だね」と笑います。


田舎ならでは。互いに関わり合う居心地の良い関係


お二人が定年後について考えたのは、市の職員として働いていた40代。思い描いたのは、自然に囲まれた場所で自分の食べるものを自分で作り、周囲と関わり合いながら目的をもって生きる暮らし。そこで、週末に2人で各地の里山に出かけ、理想の場所を探し歩きました。

信雄さんは岐阜、生子さんは金沢出身。東北に特に縁はなかったものの「北上川に沿って穀倉地帯が広がり、四季がはっきりした自然と産物が豊かなイメージだった」と信雄さん。栗駒山の広大なブナ林を気に入り、栗原市一迫地区の小高い山の中腹にある眺めの良い土地を求めました。そこに寝泊まりもできる小屋を建て、4、5年の間、週末に東京から通うようになりました。


いよいよ本格的に家を建てた後も、信雄さんは恩返しのつもりで定年後の4年間を地域貢献活動に当てました。生子さんは信雄さんから2年遅れての定年でしたが、先に一人、栗原で生活をはじめ、犬の散歩をしながら出会う人と親交を深めるなどこちらの地域に溶け込んでいきました。最初は、「一人で家にいても朝昼晩と誰かがおかずを持ってきてくれたり、買ってきたものをおすそ分けしてくれたり。そんなお付き合いをしたことなかったからびっくりしました」と生子さん。「お返しできるものがない、と難しく考えましたが、遠慮なくありがとうって言って仲良くできればそれでいいんだと思ってね」と信雄さん。誰かが見守ってくれる、関わり合ってくれる居心地の良さを感じ、「子育てをする若い世代こそ、田舎暮らしの環境に向いているのでは」(生子さん)とも思ったそう。

土地を求めたきっかけは不動産広告でしたが、実際に移住の背中を押してくれたのは人との関わり。お二人の飾らない人柄はもちろんですが、住まう地域とゆっくり関係性を築いてきた様子に、移住をうまく進めるヒントがあるように思えます。


地域の経済を潤し、農業の持続に貢献したい


地元の木材にこだわって建てた家からは、春先は水鏡のように光り、初夏は青々と、秋は黄金色の稲穂が実る田んぼの姿など、里山の四季の景色が見渡せます。ひとたび何か起こればもろい危うさのある都会とは違った、豊かな価値を感じながらも「この地も農業の将来は分からない」と信雄さん。「ここを選んで住む意味、農家の庭先にも宝があることを、言葉で伝えるよりおいしいものをつくって表現したい」と話します。

2人の思いは、この事業が、地域の農業を支え、耕作放棄地を開墾するなど次世代が農業で生活できるように。また地域を潤し、次の誰かに引き継ぐ事業となりえるように。「バトンを渡せば、いよいよゆったりした田舎暮らしだよ」と、課題に向き合いながら、“目的のある”老後の田舎暮らしを楽しんでいるようでした。


インタビューした人:渡辺信雄さん・生子さん
category: 移住者インタビュー   theme: 栗原市

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