同じ時間を過ごすのであればHappyに、上手く行かないことも、不便さも含めて移住先を楽しく生きる

山間の町を、更に奥へ。「七ヶ宿の白炭」佐藤さんご夫妻


宮城県南部、蔵王連峰の南麓・七ヶ宿町。冬の間は雪が積もっているため、見落としてしまうような民家の間の細い道を登った場所、七ヶ宿でも山の中に佐藤さんのお宅がありました。初めて訪れる人は「本当にこの先にお宅があるのかな…」と少し不安になるかもしれません。工房の看板が見えるのと同時に、人懐っこい犬が迎えてくれました。炭焼きと、その炭を使ったお菓子を作る佐藤さんご夫妻。名古屋出身の光夫さんと仙台出身の奥様・円さんは勤め先の出版社で出会い、20年前に縁もゆかりもない七ヶ宿に移住をして来ました。

移住者と犬がお出迎え

「山の仕事がしたかった」という光夫さんは、自給自足で平和なくらしができる場所を…と引っ越し先を探して東北を歩きました。これといった職業を決めていた訳ではありませんが、炭焼きの師匠・佐藤石太郎さんに出会い、七ヶ宿町への移住を決めました。七ヶ宿での住居や当面の仕事などは、師匠をはじめ周りの人たちが世話をしてくれてあれよあれよと決まりました。「まるで川を流れるように生きて来たみたい」と円さんは振り返ります。当時の家は今の家よりも更に山奥にあったとか…。「寒い雪の日、トタン板1枚で仕切られた洗濯機が凍ってしまうのが一番困ったことだった」と楽しそうに笑って話してくれました。

移住者佐藤さん

冬の宮城


田舎暮らしのはじまり


1994年に七ヶ宿に引っ越し、春・夏・秋は森林組合で働き冬は炭焼きをする暮らしを始めます。炭焼きをしている間は、売るものが無いため現金収入がありません。そこでその間は円さんが近くのスキー場へパートで働きに行きました。スキー場には光夫さんの森林組合の同僚の家族がいて、「おらほ(うち)の孫みたいなもんだから」と可愛がって貰ったそうです。郷に入れば郷に従え、という諺にあるように、その地域の暮らし方、地域独特の文化・風習を知らなければ田舎暮らしは少し大変です。
他の仕事をしていたら、こうはならなかったかもしれません。全くのよそ者だったお二人は、こうした暮らし方でスタートしたため、町の人とぐっと近くて暖かい関係になったのでしょう。

生業(なりわい)をつくる・1

白炭

ここで少し、炭焼きの仕事をご紹介します。炭焼きと言うと、木を切って焼くのだから…と環境破壊のイメージを持っている方もいるかもしれません。でも実は、森林のバランスを調度良く保ち山を生かし続けるために、木の様子を見ながら伐採し、それを炭焼きにしているのです。炭焼きを通じて山の木々の成長のための適切な手入れをすることで、木が健やかに育ちます。炭焼きは、木、山、そして自然の調和の中で行われているのです。
炭焼きでできる炭は「黒炭」と「白炭」の2種類に分けられます。黒炭は比較的低温で焼成し、窯の中で火を消します。光夫さんの炭焼きは「白炭」と呼ばれるもので、1,000度以上にもなる高温で焼成し、熱いうちに釜から炭を搔き出して冷まして仕上げます。白炭の代表的なものに備長炭があります。黒炭よりも硬く純度が高く、火持ちが良いことから、高価な炭とされている白炭ですが、大変な重労働のため、生産者はごくわずかです。
なかなか続ける人がいない厳しい労働です。それでも光夫さんは「受け継いだからには残していきたい」と言います。高知などの一大産地以外では、趣味で少し焼いているという方はいても、炭焼きで個人で生計を立てている人はいません。しかし、受け継ぎ残していくために、光夫さんは炭焼きを生業(なりわい)にしたのです。

生業(なりわい)をつくる・2

田舎へ移住の理由に、自給自足への憧れをあげる方もいます。しかし、収入は大きな問題の一つです。
佐藤さんご夫妻の場合は「白炭」という競争のいない(少ない)商品が一番の強みです。他にはないので、価格も自分で決められます。併せて良い師匠との出会いもありました。さらに、山の仕事をしたいというご自身の希望にも沿っていたこと、そして「炭焼きを残していきたい」という使命感が、大変な中でも、楽しく続けられた理由でしょう。「『生業』になっているかというと…今もまだどうなんでしょう。もっと大変だと思っていたので! でも、田舎では食べものに困って飢え死にすることの方が難しいです!」。くるくると子どものように愛らしい目をして円さんは言います。

佐藤さんのすみやぐらし

明るく、終始和やかなお二人ですが、七ヶ宿を出ることも考えたことはあります。けれども、そんな時、思いがけない人が助けてくれました。それまで遠巻きに見ていた人、何かと小言を言って来た人…お二人からすれば「ちょっと遠慮したい人」だったはずの人が救世主となったのです。きっとその人は、都会から来た若い2人に何と声をかければいいのか戸惑っていたシャイな田舎の優しい人だったのでしょう。一番辛いときに手を差し伸べてくれる人こそ、本当に信頼のできる人。そんな人に出会い、佐藤さんご夫妻は今も七ヶ宿で暮らしています。 
 
生業(なりわい)をつくる・3

移住者佐藤さん夫妻

家庭も、仕事場も一緒のお二人の周りには、お互いを気遣う暖かな空気が流れています。光夫さんが丁寧に的確に説明をした後に、円さんが楽しく補足をする本当に素敵なご夫婦です。お二人に「けんかしないのですか?」と聞いたところ「けんかばっかりですよ! でも、それを『家』には持ち込まないことが上手になった」と。例えばパッケージについて相談しているときには意見が食い違ってもこれを伝えたい、商品を良くしたい、という「思いが同じ」という共通認識があるから、対立してもすぐに丸く収まるそうです。色んなことでぶつかるけれど、「大事なこと」を見極めると、怒る相手・問題はそこではないなと気付けるのだそうです。これも、長年一緒に過ごし、何度となくけんかもしてきたからこそ。


同じ時間を過ごすならば、Happyに


すみやのくらし

円さんは2013年に菓子工房「すみやのくらし」を開業しました。「炭って食べられるの?」「どんな味がするの?」と、はじめは恐る恐る手を伸ばすのですが、「すみやの炭チョコレート」は、見た目は本当にガトーショコラで、言われなければ炭が入っているとは思いません。しっとり濃厚なのに軽さのあるクラッシックショコラです。素材も地元産のものや、オーガニック素材、油も厳選しています。身体に良いものだから無理して食べる、のではなく、美味しく楽しく食べて、身体の中から元気に!という思いが込められた手づくりのお菓子です。炭が身体に良いからと炭の粉を求める方もいて、炭を使った佐藤さんの作るお菓子はリピーターも増えています。

上手く行かないこともたくさんありました。震災後は様々な情報が飛び交い、不安にもなりました。けれども、同じ時間を過ごすのであれば楽しくHappyに過ごしたい。そしてHappyの和が広がれば、世界平和につながるはず! 七ヶ宿町に移住して20年、お二人がこの先に描く夢はまだまだ広がっています。



インタビューした人:佐藤円さん/菓子工房すみやのくらし
category: 移住者インタビュー   theme: 暮らし 七ヶ宿町

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